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最高裁判所第一小法廷 昭和50年(行ツ)84号 判決 1979年4月19日

上告人

株式会社 松一

右代表者

松井一貫

右訴訟代理人

根岸隆

被上告人

浅草税務署長

北川烈

右指定代理人

蓑田速夫

菊池信男

鎌田泰輝

外八名

主文

原判決及び第一審判決を次のとおり変更する。

1  被上告人が昭和四一年六月二九日付で上告人の昭和三八年九月一日から昭和三九年八月三一日までの事業年度分の法人税についてした更正及び過少申告加算税賦課決定は、課税所得金額一六九万〇七二九円を基礎として算出される税額を超える部分を取り消す。

2  被上告人が昭和四一年六月二九日付で上告人の昭和三九年九月一日から昭和四〇年八月三一日までの事業年度分の法人税についてした更正及び過少申告加算税賦課決定は、課税所得額三七万三四五一円を基礎として算出される税額を超える部分を取り消す。

3  上告人のその余の請求を棄却する。

訴訟の総費用はこれを一〇分し、その一を上告人の、その余を被上告人の各負担とする。

理由

上告代理人根岸隆の上告理由第一点について

昭和四〇年法律第三四号による全面改正前の法人税法三二条及び右全面改正後の法人税法一三〇条二項は、青色申告にかかる法人税について更正をする場合には、更正通知書に更正の理由を附記すべき旨を定めているが、右のように法が更正通知書に更正の理由を附記すべきものとしているのは、法が青色申告制度を採用して、青色申告にかかる所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨にかんがみ、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものというべきであり、したがつて、帳簿書類の記載を否認して更正をする場合において更正通知書に附記すべき理由としては、単に更正にかかる勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによつて具体的に明示することを要するものであることは、当裁判所の判例とするところである(当裁判所昭和三六年(オ)第八四号同三八年五月三一日第二小法廷判決・民集一七巻四号六一七頁、同昭和三七年(オ)第一〇一五号同三八年一二月二七日第二小法廷判決・民集一七巻一二号一八七一頁、同昭和四〇年(行ツ)第五号同四七年三月三一日第二小法廷判決・民集二六巻二号三一九頁、同昭和四三年(行ツ)第六一号同四七年一二月五日第三小法廷判決・民集二六巻一〇号一七九五頁、同昭和四七年(行ツ)第八八号同五一年三月八日第二小法廷判決・民集三〇巻二号六四頁参照)。そして、このことは、ある勘定科目にかかる計上金額について当該金額以上の収益又は費用若しくは損失の存在が認められるとして更正をする場合であると、当該金額の収益又は費用若しくは損失の存在が認められないとして更正をする場合であるとによつて、異なるところはない。

そこで本件をみるのに、原審の適法に確定するところによれば、被上告人は、(A)青色申告法人である上告会社の昭和三八年九月一日から昭和三九年八月三一日までの事業年度分(以下「昭和三九年度分」という。)法人税の更正において、上告会社が確定申告において損金に計上していた上告会社の館山支店関係取引による欠損金二八〇万九三五九円のうち訴外館山食品工業株式会社(以下「館山食品」という。)関係の支払利息一五五万八七七五円の損金算入を否認しながら、更正通知書にはその理由として「(1)主要取引銀行である千葉銀行館山南支店の取引は、館山食品の借入金による松井一貫個人名義により取引されていること。(2)館山支店は昭和三九年一月館山食品の倒産時に設置されており、取引内容も債務整理関係のみで貴社の支店とは認められないこと。」と記載したにとどまり、また、(B)上告会社の昭和三九年九月一日から昭和四〇年八月三一日までの事業年度分(以下「昭和四〇年度分」という。)法人税の更正においては、上告会社が確定申告において損金に計上していた(イ)館山食品関係の支払利息三〇九万七〇〇〇円及び(ロ)館山食品に対する支払家賃五〇万円の損金算入を否認しながら、更正通知書には、その理由として、前者については、「館山食品貸付金勘定より期末一括して支払利息に振り替えた下記のものについては館山食品の負債整理のためのもので会社の損金と認められません。」と記載し、支払相手別に支払金額を示したにとどまり、後者についても、「館山食品に対する未払家賃は債務未確定のため」と記載したにとどまつた、というのである。被上告人は、右(A)及び(B)(イ)の各支払利息は、いずれも館山食品の負債整理のためのものであり、上告会社がこれを負担すべき合理的理由がないと判断してこれを否認したものであり、前記各更正理由の記載は、いずれも右の趣旨を明らかにしたものである旨を主張するが、右更正理由の記載からは、右各支払利息が何ゆえに館山食品の負債整理のためのものであるとされるのか、また、館山食品の負債整理のためのものであると何ゆえに上告会社が現実に支払つた利息を損金として計上することが許されないのかについてその具体的根拠を全く知ることができないうえ、右各支払利息を館山食品の負債整理のためのものと認定した資料の摘示もないのであるから、右の程度の記載では、理由の附記としてはなお不十分であつて、法の要求する更正理由の附記があつたものということはできない。なお、仮に右(A)の支払利息の損金算入否認が、上告会社の館山支店なるものが上告会社の支店たる実体を有するものとは認められないので右館山支店関係の取引全体が上告会社の営業取引とは認められないとしてされたものであるとしても、前記更正理由の記載のみでは、いまだ何ゆえに右館山支店が上告会社の支店と認められないのかについてその具体的根拠を明らかにしているとはいえないうえ、そのように認定する資料の摘示もないのであるから、法の要求する更正理由の附記があつたものとすることはできない。次に、前記(B)(ロ)の支払家賃五〇万円について、被上告人は、右は、上告会社と館山食品との間には賃貸借契約が締結されておらず、また、上告会社は賃料支払いもしていないから、使用貸借であつて、債務として確定していないと判断してこれを否認したものであり、前記更正理由の記載はその趣旨を記載したものであると主張する。右の記載を善解すれば、被上告人主張の趣旨を記載したものと解することができないでもないが、被上告人が右のような認定をするに至つた資料についてはその摘示が全くないのであるから、右更正理由の記載もまた、法の要求する更正理由の附記としてはなお不十分なものであるといわざるをえない。原審が前記の程度の更正理由の記載をもつて法の要求する更正理由の附記として欠けるところがないと判断したのは、法律の解釈適用を誤つたものであるといわざるをえず、これをいう論旨は理由がある。

それゆえ、本件上告はこの点において理由があり、その他の論旨について判断を加えるまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、右に説示したところによれば、上告会社の昭和三九年度分法人税の更正及び過少申告加算税賦課決定のうち、審査裁決によつて維持された課税所得金額四二一万五三八〇円から、第一審判決において理由附記不備があるとされた松井一貫に対する支払利息の違法九六万五八七六円のほか、前記館山食品関係の支払利息一五五万八七七五円を控除した一六九万〇七二九円を基礎として算出される税額を超える部分は、違法として取消しを免れず、また、上告会社の昭和四〇年度分法人税の更正及び過少申告加算税賦課決定のうち、審査裁決によつて維持された課税所得金額五七一万〇〇八〇円から、第一審判決において理由附記不備の違法があるとされた松井一貫に対する支払利息九七万五五九九円及び光信用金庫に対する支払利息九八万一五〇〇円のほか、前記館山食品関係の支払利息三〇九万七〇〇〇円及び館山食品に対する支払家賃五〇万円を控除したうえ、右昭和三九年度分法人税の更正の一部取消しに伴う事業税額の減額分二一万七四七〇円(被上告人は、昭和四〇年度分法人税の更正及び過少申告加算税賦課決定において、損金に算入すべき事業税額を右一部取消し前の昭和三九年度分法人税の更正における課税所得金額四二一万五三八〇円を基礎として三二万四六三〇円と計算していたが、前示のように右昭和三九年度分法人税の更正を一部取り消しその課税所得金額を一六九万〇七二九円とした場合、これを基礎として算出される前記事業税額は一〇万七一六〇円となるから((昭和四九年法律第一九号による改正前の地方税法七二条の二二第一項二号参照))、その差額二一万七四七〇円は損金計算上減額すべきものである。)を加算した三七万三四五一円を基礎として算出される税額を超える部分は、違法として取消しを免れないことが明らかであるから、原判決及び第一審判決は主文第一項のとおり変更すべきものである。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、九二条、八九条に従い、裁判官中村治朗の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官中村治朗の反対意見は、次のとおりである。

私は、本件各更正処分中訴外館山食品工業株式会社(以下「館山食品」という。)関係の支払利息の損金算入を否認した部分については、各更正理由の記載が法の要求するところに合致しない違法があるとする多数意見と同意見であるが、昭和四〇年度分の更正処分中館山食品に対する支払家賃五〇万円の損金算入を否認した部分についても同様の違法があるとする点に関しては、多数意見に同調することができない。

右の家賃部分の損金算入を否認する理由として更正処分が掲げるところは、「館山食品に対する未払家賃は債務未確定のため」という極めて簡単なものであり、確かにこれだけでは、上告人も主張するように、債務未確定の場合として考えられるさまざまな場合のうちのいずれを指すのかが明確にされているとはいえないとの批判が生ずるのもやむをえないかもしれない。しかしながら、原審の認定するところによれば、上告会社は昭和三九年一月館山食品からその工場、設備一切を賃料月額四〇万円で賃借したが、同年三月末日右賃貸借契約は合意解約され、その後訴外神田産業株式会社(以下「神田産業」という。)が右工場等を賃借し、上告会社は神田産業の了解のもとに右工場の一部分を使用していたが、昭和四〇年五月ころ神田産業が事業に失敗して右工場から退去したため、その後借り手のないままに、上告会社が徐々にその使用面積を拡げて行き、後には右工場敷地の約半分を使用するに至つたが、右使用に関しては上告会社と館山食品の間に賃料支払の合意があつたと認められないことはもちろん、館山食品が賃料の支払を前提として上告会社による使用を容認していたとも認められないというのである。このように、上告会社による賃料の現実の支払もなく、また、賃料債務発生の原因となる事実の存在も認められない場合においては、課税庁として上告会社が損金として計上した家賃支払を否認するにあたつては、その理由として右の両事実を指摘すれば足りるものというべきところ、前記更正理由中「未払」家賃と記載しているのは家賃の現実の支払がなされていないことを、また「債務未確定」と記載しているのは確定金額の賃料債務発生の原因である事実の存在しないことをそれぞれ表示したものと解しえられないではなく、更正の具体的理由の表示につき法の要求するところを最小限度みたしたものとみて差支えなく、多数意見もこの点に関する限りはこれと同一の見解をとつている。私見が多数意見とわかれるのは、多数意見が、更正の理由として単に右のような点を指摘するだけでは足りず、課税庁がそのような認定判断をする根拠となつた資料で上告会社の帳簿記載以上に信憑力のあるものを提示する必要があるのに、本件の場合にはその提示がないから結局更正につき法の要求する理由の記載を欠くこととなるとしている点についてである。

多数意見の引用する当裁判所の従来の判例は、青色申告の場合における更正理由の記載においては、右のような資料の提示が必要であると解しており、私も、一般論としてはこの解釈は正当であると考える。しかし、課税庁が更正を行う場合及びその理由は多岐多様にわたり、右の一般論をもつては律し切れない場合又はこれを適当としない場合もありうるのであつて、上記各判例は、このような場合についても上記のような資料の提示を要求する趣旨ではないと思う。本件の場合についてみると、上告会社は五〇万円の家賃支払を経費として計上しているが、記録及びこれを通じて看取される弁論の全趣旨に徴すると、右賃貸借については、賃貸借契約書や賃料の支払に関する帳簿書類はなく、また、賃料債務の発生を示すものも存在しないことがうかがわれるし、他方工場等の使用に関する実際の事実関係は上記のごときものであつたのである。もとよりこのような場合においても、更正処分をする課税庁としては、あるいは債権者である館山食品から自己の認定を裏づける資料を取得し、あるいはその行つた反面調査の結果を書面資料として用意するなどしたうえ、これらを提示して上記損金算入否認の理由を説明するのが万全の措置というべきであろうが、私には、課税庁に対してそこまでを法律上の義務として要求するのは妥当とは思えない。それ故、被上告人がその調査の結果前記のような認定判断に到達した旨を更正理由に記載しただけで、それ以上にこのような認定判断の根拠資料を具体的に提示するところがなかつたとしても、そのことの故をもつて更正の理由の記載につき法の要求するところに欠けるものがあるとしてこれを違法とすることにはちゆうちよするものを感ぜざるをえないのである。

右の次第で、私は、上告理由第一点中前記五〇万円の家賃の損金算入についての更正処分に関する部分は理由なきものとしてこれを排斥すべきものと考えるものである。なお、右の部分に関するその他の上告理由は、いずれも原審の事実の認定判断の不当をいうに帰するものであるところ、この点に関する原審の認定判断は原判決挙示の証拠に照らし正当として是認することができるから、すべて採用することができない。そうすると、原判決は右の部分に関しては正当として維持すべきものであるから、本件の処理としては、本件更正処分中冒頭掲記の支払利息に関する部分についての上告はこれを認容し、第一審判決及び原判決はいずれも右の限度においてこれを変更し、その余の上告は失当としてこれを棄却する趣旨の判決をすべきものと思う。

(本山享 団藤重光 藤崎萬里 戸田弘 中村治朗)

上告代理人根岸隆の上告理由

第一点 原判決理由欄一、(一)「第一審原告の当審における主張第二項について」と題する項目について

原判決のこの部分には、二重の意味で旧法人税法(昭和四〇年改正前)第三二条、及び法人税法第一三〇条第二項の解釈・適用を誤つた違法又は判例違反がある。

一、上告人は、青色申告法人であるから、昭和三九年度分の申告については、旧法人税法第三二条、昭和四〇年度分の申告については、法人税法第一三〇条第二項の適用があるところ右各条項によれば、上告人の青色申告に対する更正をなすには、更正通知書に理由の附記が必要である。

その理由附記が必要とされる趣旨は、処分庁の恣意を排除し、処分の合理性を担保するとともに、併せて納税者に不服申立の便宜を与えることにある。

従つて、その理由附記の程度については、従来、最高裁判所の判例は次の如く解して来たものである。

(昭和三六年(オ)第八四号、昭和三八年五月三一日判決)

「特に帳簿書類の記載以上に信憑力ある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにすることを必要とする」

(昭和三七年(オ)第一、〇一五号、昭和三八年一二月二七日判決、最高裁判所民事判例集一七巻一二号一、八七一頁)

「若し、その帳簿全体について真実を疑うに足りる不実の記載等があつて青色申告の承認を取消す場合は格別、そのようなことのない以上、更正は、帳簿との関連において、いかなる理由によつて更正するかを明記することを要する」

更には、帳簿の記載を否定するのではなく、同族会社の行為計算の否認規定を適用して更正する場合にも、具体的根拠を示して理由を附記しなければならないと解されて来たものである(最高裁判所昭和四〇年(行ツ)第五号、昭和四七年三月三一日判決、前記判例集二六巻二号三一九頁)

二、ところで、原判決は、上告人の法人税申告書のうち昭和三九年度支払利息一、五五八、七七五円、及び昭和四〇年度支払利息三、〇九七、〇〇〇円、同年度支払家賃五〇万円の各項目更正について、甲第一号証及び甲第二号証程度の更正の附記理由をもつて、「更正を相当とする具体的根拠が明示されていると認められ、かつ、その程度の記載をもつて足りるというべきであり」と判示した。

(一)1 しかし、甲第一号証によれば、昭和三九年度支払利息一、五五八、七七五円の項目について、附記理由としては、全文次のとおり記載されているにすぎない。

「2 館山支店関係取引による欠損金¥二、八〇九、三五九

(1) 主要取引銀行である千葉銀行館山南支店の取引は館山食品工業株式会社の借入金による松井一貫個人名義により取引されていること

(2) 館山支店は、昭和三九年一月館山食品工業株式会社の倒産時に設置されており取引内容も債務整理関係のみで貴社の支店とは認められないこと

(3) 昭和三九年一月〜三月の神田産業との取引を支店の取引としているが実質は新井一貫氏を保証人として神田産業と館山食品工業との取引である。」

2 ところで、右更正項目の欠損金二、八〇九、三五九円は、上告人の館山支店での缶詰製造に伴う欠損金一、二五〇、五八四円と、前記支払利息一、五五八、七七五円を合算したものであり、右更正理由も、二つの異なる性質の損金につき一体として附記したものである(甲第八号証参照)。

そして、右支払利息は、上告人が館山食品工業株式会社に振出していた融通手形を、同社の倒産に伴つて、支払期日延期のための書替利息及び手形金支払のため他から借入れた金銭の利息の性質を有するものである(第一審判決の事実認定)。

その利息支払先及び金額は次のとおりである。

千葉銀行

館山支店 三七二、九七二円

町田銀次郎 六五二、九四四円

安房金融 九八、九八八円

福原 一二、〇三三円

本柳雅美 七二、〇〇〇円

佐久間庄蔵 一二三、五〇〇円

安房信用組合 一九八、七七七円

館山信用金庫 一八、七一〇円

鈴木四郎 八、八五〇円

以上は、上告人提出の昭和四五年二月二日付準備書面一二丁表、裏参照。

また、この支払先、金額について、被上告人は明らかに争つていない(被上告人提出の昭和四六年五月一一日付準備書面四丁裏参照)。

3 なお、右支払利息が会社帳簿上も、支払利息損金として経理されていたことは証人宮武の証言によつても明らかである(同人の尋問調査、本件記録四五九丁裏、四六一丁表参照)。

4 右事実に照らせば、前記附記理由は、現実に上告人の支払つた利息を、何故に上告人の支払利息でないと認定したのか、まつたく不明である。

甲第一号証は、公文書であるから、その記載はその文字通りに理解すべきところ、その附記理由はそもそも日本語として意味不明な点が多い。

上告人の支出した利息を上告人の損金でないと認定する理由としては、少くとも、元本債務者の認定理由、利息の発生経過等につき、具体的根拠が示されねばならない。

しかし、前記附記理由(1)は、いかに善解しても、主要取引銀行との取引が館山食品工業(株)の借入金を上告人代表者個人名義で取引しているという意味以外になく、何ら上告人の利息であることを否認する理由とはならない。しかも、前記支払利息中、千葉銀行に支払つたものは前記の如く、ごく一部にしかすぎない。

また、附記理由(2)も、上告人の館山支店は、取引内容が債務整理関係のみであるから支店と認められないという意味以外にない。従つて、債務整理といつても、債務者が不明であり(上告人の債務もありえる)、また、右支払利息が右債務整理といかなる関係にあるかはまつたく記載されていない。更に、上告人の館山支店は甲第八号証の如く現実に営業活動を行なつているのであるから理由記載の不十分たること明らかである。

附記理由(3)については、前記支払利息と関係ないこと一読して明らかであろう。

以上のとおり、前記附記理由は高々銀行取引名義あるいは支店の取引内容から上告人の館山支店は認められないと記載しているだけであり、帳簿記載を否定する何らの資料の摘示もなく、とうてい「更正を相当とする具体的根拠が明示されている」とは認められず、これだけでは上告人の利息とならない理由はまつたく不明である。

5 以上のような不明な附記理由をもつて、前記の如く判示した原判決は、明らかに旧法人税法第三二条の解釈適用を誤つたものであり、あるいは、前記の最高裁判所の各判例に違反するものである。

(二)1 次に甲第二号証としては、昭和四〇年度支払利息三、〇九七、〇〇〇円については、その附記理由は、

「2、(2)

館山食品工業株式会社貸付金勘定より期末一括して支払利息に振替えた下記のものについては、館山食品工業の負債整理のためのもので会社の損金とは認められません」

と記載し、更に支払先、金額が記載されているにすぎない。

2 しかし、右理由記載だけでは、現実に上告人が支払つた利息が何故館山食品工業の負債整理のための支払となるのか不明であり、「具体的根拠が明示されている」とは認められない。

右附記理由についても、前記の如く判示した原判決はこれまた法人税法第一三〇条第二項の解釈適用を誤つたものであり、あるいは、前記の最高裁判所の各判例に違反するものである。

(三) 更に、甲第二号証は、昭和四〇年支払家賃五〇万円については、その附記理由は、

「5 支払家賃  ¥五〇〇、〇〇〇館山食品工業株式会社に対する未払家賃は債務未確定のため」

と記載されているだけである。

しかし、債務確定といつても、種々の形態があるのであるから、単に「債務未確定のため」では、いかなる理由で債務未確定とされたのか不明であり、納税者たる上告人の不服申立に何ら役立たない。従つて、右程度の理由附記をもつては、不十分である。

右の如く不十分な附記理由についても、前記の如く判示した原判決は、法人税法第一三〇条第二項の解釈を誤り、あるいは前記の最高裁判所の各判例に違反する。

三、次に、原判決は、附記理由の程度に関する理論的基準として、

「特別な事情があるときは、附記理由を認定した資料および根拠を摘示することを要するが、本件事案においてはこれを摘示するのを相当とする特別な事情の存在を認めうるものがない。」

と判示した。

右判示は、青色申告に対する更正においても、理由附記の程度としては、一般的には「資料および根拠を摘示する」ことを要しない。ただ特別な事情がある場合にだけ右の摘示を要するとの解釈を明言するものである。

しかし、旧法人税法第三二条、法人税法第一三〇条第二項は、更正の附記理由として、原則として「資料及び根拠を摘示」することを要求しているものであり、前記一連の最高裁判所の判例もこの立場をすべて明言しているところである。

なるほど、「資料及び根拠の摘示」を要しない場合もないわけではなかろう。しかし、それはあくまでも例外であり、かかる例外的事情は被上告人たる処分庁において主張・立証すべき事項であり、本件において被上告人がかかる主張・立証をしていないことは全記録上明らかである。

以上のとおり、原判決の右判示は、前記各法条の解釈あるいは各判例に違反することは明白である。

また、原判決も黙認するごとく、甲第一号証及び甲第二号証が、上告人の昭和三九年度支払利息一、五五八、七七五円、昭和四〇年度支払利息三、〇九七、〇〇〇円、同年度支払家賃五〇万円の各更正につき、附記理由を認定した資料及び根拠を摘示していないことは、一見して明白であるから、右解釈の誤、あるいは判例違反が原判決に影響を及ぼすこと明らかである。

第二点、第三点<省略>

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